積算評価法による投資物件の評価について

2020年12月18日14,258

銀行が物件を評価する際に使う指標は、不動産投資家が気にする利回りやキャッシュフローではない。

銀行と投資家では、物件を見る視点が異なるのだ。

良い物件を融資を引いて購入するには、投資家の視点と銀行の視点の両方を十分に満たすものを探すことが必要だ。

この項では、銀行が投資物件を評価する際の「積算評価」について解説を行うので確認して頂きたいと思う。

もうひとつの「収益還元評価」については別項で説明する。そちらも確認して欲しい。

銀行は積算評価法を使い物件の資産価値を測る

銀行の不動産に対する計算方法は各行により異なっており、同じ評価方法ではない。

耐用年数や掛目の入れ方が異なるが、大きな考え方の方向性は同じだ。まずは以下の2つの評価方法をおさえることから行って欲しい。

土地と建物の評価をそれぞれ出して合計したものを積算評価と言う。

多くの地方銀行が、この評価方法を採用しているので、評価方法はマスターしておいた方がいい。

都市銀行は、積算評価と収益還元評価の両方を使って評価を出しているケースが多い。

積算評価の算式は、土地と建物に分けて計算することが特徴だ。

土地の積算評価価格は以下の計算式になる。


土地の価格=路線価×土地の広さ(平米)


「路線価」というのは、土地の相続税を計算する時に使う価格だ。路線価は「公示価格」の8割が基本となっている。

「公示価格」とは国土交通省が毎年1月1日に発表する土地地価で、固定資産税の計算等で基本となる価格だ。地価公示法に基づいて普通の取引が行われたとすると、この価格になるであろうと思われる価格となっている。

話は逸れるが、実際の売買される価格を「実勢価格」と呼ぶ。この実勢価格、公示価格、路線価、固定資産税評価額(公示価格の7割)の4つを合わせて、「一物四価(いちぶしつか)」と呼ぶ。

一つの不動産に4つの価格があるということだ。詳細は別項「収益不動産には4つの価格がある」を参照して欲しい。

土地の積算評価を算出するための路線価について話を戻そう。

路線価はインターネットで手軽に調べることが出来る。

地価マップ」を使い該当の物件が面している道路を見つけ、路線価を調べる。この数字に物件の土地の平米数を掛けたものが、土地の積算評価になる。

以下の記事も参考にしてほしい。

収益物件の路線価と土地の評価額の調べ方

積算評価法の土地の評価計算には掛目を入れる

基本的な計算式は上記の通りだが、これで終わりではなくこの計算結果に掛目を入れることが必要だ。

掛目(1) 用途地域による価格調整

用途地域 掛目
商業地域 +10%
第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地 プラスマイナスなし
第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域 -10%
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地 -20%
準工業地域、工業地域 -30%
工業専用地域 アパート・マンションは建てられない

上記の通り商業地が土地活用の制限が一番少なく、利用価値が高い土地となる。色々な建物が建てられるからだ。

一方で、第一種低層住居専用地域などは、単独で店舗すら建築できないなど制約が大きく価値が低くなる。

工業系は住環境を悪化させる恐れのある工場の建築が可能なため、かなりのマイナス評価となるだろう。

掛目(2) 土地の形状による価格調整
土地の形状は、基本的に接道面が広い方が好まれる。

一番評価が高いのが正方形で接道面が2面以上取れる土地だ。

旗地(引き込み道路)や、長方形の短い方の辺しか接道していない土地は、評価がぐっと下がる。また、住居用物件では南向きが好まれるため、日照の関係で南接道の方が北接道より良いとされる。

個々の土地の形状により評価は異なるが、+30%~マイナス50%(もしくは融資不可)まで掛目は異なる。

積算評価法では建物の構造により評価方法が異なる

次に建物の積算評価について説明しよう。

以下が建物部分の計算式となる。


建物の価格=再調達価格×延べ床面積×残存年数/法定耐用年数


再調達価格とは、建物を建てた時の平米単価であり、下記の通りとなる。

木造・軽量鉄骨 15万円(12-15万円)
重量鉄骨 18万円(15万円-18万円)
RC・SRC 19万円(18万円-20万円)

カッコ内の数値は、銀行による多少の違いをレンジで示したものだ。

この再調達価格の金額に延床面積を掛け、経過年数を加味したものが建物の積算価格になる。経過年数は法定耐用年数を上限として計算し、以下の通りとなる。

木造・軽量鉄骨 22年
重量鉄骨 34年
RC・SRC 47年

※銀行によってはRCの耐用年数を40年で見ることもある。評価方法は各行で分かれる。

積算評価法の具体例

具体的な積算評価の方法を、例を挙げて説明をしよう。
以下のような物件があったとする。

土地 500平米
路線価 20万円/平米
用途地域 第一種住居地域
構造 RC
築年数 20年
延床面積 1,000平米

上記の物件は、以下の通りの計算式で計算される。


 土地 500平米×20万円=10,000万円

 建物 1000平米×19万円×(47年-20年)÷47年=10,914万円


積算価格は土地と建物を合計した金額となるため、20,914万円になる。

この金額が、物件の売価より高いと「資産性が高い物件」として評価される。

ただし、そのような物件は市場に出ている物件の1割程度だと思われる。

特に、利回りが低い都心部で積算評価が出る物件は非常に少ないのが実状だ。

銀行のもうひとつの評価指標である「収益還元評価」については別の記事で説明しているので読んでみて欲しい。


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この記事の監修者

不動産投資ユニバーシティ代表 志村義明
大学を卒業後、大手シンクタンクに入社。リテール金融ビジネス向けの業務に従事。愛知、埼玉、山梨等で不動産賃貸業を展開し、会社員時代に合計100室超を購入。高利回り物件の投資を得意とし、保有物件の平均利回りは16%超にのぼる。現在は不動産会社(宅地建物取引業者 東京都知事(2)第98838号)を経営。
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