家賃滞納者を強制退去させるのは違法!正しい手順と必要な費用

2020年12月16日7,087

アパート経営における「家賃滞納」は深刻な問題である。保有物件で家賃滞納が起こっている場合、早急に何らかの手を打たなければならない。

家賃が入ってこない=空室の状態と変わらない。しかし、実際には住人がいるため新たな入居者募集はできず、部屋の劣化がどんどん進んでいく。投資として甚大な損失だ。

入居者が家賃を払わないなら「即刻退去させてしまいたい」と思うかもしれないが、安易に強制退去に踏み切るのは得策ではない。

今回は、家賃滞納者を退去させる場合の正しい手順と必要な費用を紹介していく。

家賃滞納者を力ずくで強制退去させるのはNG!違法の危険性も!

保有物件に家賃滞納者がいる場合、「一刻も早く出ていってほしい」と思うかもしれないが、大家の独断で強制退去させることは不可能だ。なぜ家賃を支払わない人を退去させられないのか、強制退去させた場合はどうなってしまうのかを紹介していく。

家賃滞納者は法律で守られている

まず、大前提として、家賃滞納者を大家の判断のみで強制退去させることはできない。入居者は、「自力救済禁止の原則」という法律で守られているのだ。

自力救済とは、自分の権利を侵された人が、法的な手続きをとらずに実力行使をもって(自力で)権利をとりもどす行為をさす。たとえば、自分の持ち物を友人に貸して返ってこないからと、友人の家に勝手に入って貸したものを持ち帰る行為は自力救済にあたる。「自分の物なのになぜ?」と思うが、自力救済を認めてしまうと、暴力がふるわれたり、権利がないのに実力行使がなされたりといったことが起こるかもしれない。

賃貸契約でもこの法律は有効だ。大家の持ち物である部屋を入居者に貸しているあいだに、やっぱり貸すのが嫌になったとしても勝手にとりあげることはできない。賃借人が家賃を滞納していても、法律で守られているため、退去してもらうには正式な裁判をして定められた手順をふまなくてはならないのだ。

実力行使で強制退去させた場合は「大家」が罪にとわれる!

「自力救済禁止の原則」を無視して、勝手に家賃滞納者の部屋に入り家財を外にだしたり、鍵を変えて部屋に入れなくしたりした場合、大家はつぎのような罪にとわれるリスクがある。

  • 勝手に部屋に入る──住居侵入罪
  • 家賃を払うまで帰らない──不退去罪
  • 「家賃を払わないと○○しますよ」──脅迫罪
  • 退去を強要する──強要罪
  • 勝手に鍵を変える──器物損壊罪
  • 家財を勝手に外にだす・捨てる──器物損壊罪など

大家が実力行使の強制退去を行って賃借人に訴えられれば、住居侵入罪や不退去罪、脅迫罪、強要罪、器物損壊罪などの罪になる可能性が高く、大家側が裁判に負けることになるだろう。

家賃滞納者を強制退去させる場合の「3つの条件」と正しい「9つの手順」

大家が家賃滞納者を退去させるには、正式な手順をふまなければならない。強制退去させるには3つの条件があり、その条件を満たしたうえで、正しい手順をとる必要がある。強制退去に必要な条件と正しい手順をくわしくみていこう。

強制退去に踏み切る前に!必要な3つの条件

家賃滞納者を強制退去させるための条件は大きくわけて3つあり、原則すべての項目が満たされていると裁判所が認めなければ強制退去させることはできない。反対に、3つの項目が満たされていれば、強制退去させられる可能性はかなり高くなる。

強制退去に必要な条件1.長期間の家賃滞納

通常、賃貸契約書には「2ヶ月以上の家賃滞納があった場合、契約解除となる」と記載されていることが多い。入居の際にきちんと契約書を交わしていれば、契約違反として退去を求める権利が発生する。あくまでも目安だが、3ヶ月以上の滞納があった場合に、裁判で強制退去が認められた判例が多い。

強制退去に必要な条件2.支払いの意思がない

「支払いの意思があるか」は、裁判の際にとても重要視される条件である。賃貸契約で入居者は、家賃の支払いを条件に居住の権利をえている。家賃の催促をしても電話にでない、連絡がとれないなど支払いの意思がみられない場合、「家賃支払いの意思がない=居住の権利がない」ととらえることができる。強制退去の裁判では支払いの意思が重視されるのだ。

強制退去に必要な条件3.大家と借主の信頼関係が壊れている

3つめの条件は、大家と借主の信頼関係が壊れているということだ。何ヶ月の家賃滞納があれば信頼関係が壊れているといえるのかは、法律上はっきりと決まっていない。やや曖昧な条件ではあるが、「賃貸契約を続けることが困難かどうか」という観点で判断されるケースが多い。

家賃滞納者を強制退去させるための9の手順

家賃滞納が続き、話し合いで解決が不可能な場合、強制退去してもらうことになる。必要な条件が満たされ、強制退去の手続きに入る際の正式な手順を紹介する。

強制退去手続きの流れ

STEP1.電話や手紙で「支払い催促」をする

入居者から家賃の支払いがない場合、支払いの意思を確認するために電話や手紙で催促しよう。家賃の支払いがなかった翌日に催促をして、支払いがあるまで継続的に連絡をとったほうがよい。入居者にもそれぞれ事情があり、「ただ忘れていただけ」「給料が入ってから支払うつもりだった」などと言い分があるかもしれない。改めて家賃支払いの期日が相談できれば、話し合いで解決することも多い。

STEP2.催促をしても支払いがなければ「連帯保証人へ連絡」しよう

入居者に何度催促をしても連絡がつかず、家賃を支払う意思がみられないのであれば、連帯保証人に連絡して代理で支払ってもらうことになる。もし、家賃保証会社が連帯保証人になっている場合、家賃保証会社へ連絡すれば家賃の立て替えをしてくれる。さらに、以降の賃借人への裁判の手続きなども保証会社に任せることが可能だ。

STEP3.それでも支払いがない場合は「内容証明を送付」しよう

連帯保証人からの支払いも期待できない場合、支払い期日を記載して内容証明郵便による請求書を送付しよう。請求書には金額と支払い期日を明示して、支払いがない場合には立ち退き・明渡しなどの法的手段をとることを書かなければ裁判にはできない。

■内容証明に記載する事項

  • 「催告書」と見出しを簡潔に書く
  • 差出人の自分の名前に判子をおす
  • 賃貸契約内容を記載し、違反を認識させる
  • 賃借人の住所
  • 契約日
  • 未払い賃料
  • 支払い期日
  • 振込先口座
  • 「以上」で結ぶ

くわしい内容証明の書き方はつぎのサイトを参考にするといいだろう。

参考サイト:「あなたの弁護士」

STEP4.内容証明の請求期間内に支払いがなければ「賃貸借契約の解除通知を送付」しよう

内容証明を送付しても期間内に支払いがない場合「賃貸借契約の解除通知」を送付しよう。解約の意思表示は口頭でもかまわないが、通知をした証拠となるため、書面で送付するのが確実だ。正式な書類のため、これも内容証明で送付する。

くわしい賃貸契約解除通知の書き方はつぎのサイトを参考にするとよい。

参考サイト:「文書」テンプレート無料ダウンロード

STEP5.裁判の準備「明渡請求の申し立て」をおこなう

契約解除通知の送付後、不動産の明渡請求訴訟の準備をすることになる。裁判の提起を行うには、訴状を作成して裁判所へ提出する。訴状は裁判所のホームページからダウンロードができる。

STEP6.ついに裁判!「明渡請求の訴訟」と「延滞分の支払い請求」

明渡請求訴訟の提起を行い、ついに裁判となる。裁判では、各当事者がそれぞれの主張を発言し、証拠をだし合っていく。

■明渡請求訴訟で証拠となる必要書類

  • 不動産登記簿謄本
  • 固定資産評価額証明書
  • 代表者事項証明書(法人の場合)
  • 予納郵便切手
  • 収入印紙
  • 証拠書類
    • 建物賃貸借契約書
    • 内容証明郵便
    • 配達証明書

自分が大家であることを明らかにする書類と、賃貸の契約内容、すでに契約を解除している旨の内容証明を提示し、信頼関係が壊れている事実を主張する。また、同時に延滞分の家賃支払い請求も行う。ここで話し合いが成立すれば裁判所により和解調書が作成される。判決後、賃借人と大家のあいだで退去日の調整を行う。

STEP7.退去日が決まらない場合は「強制執行の申し立て」を行う

自主退去日の交渉がまとまらない場合は「強制執行の申し立て」を行い、強制的に立ち退いてもらう手続きをしなければならない。強制退去の日付は裁判所が定めた日付となるため、それを賃借人に伝えると交渉がまとまりやすく、賃借人にとっても都合がいいだろう。

STEP8.裁判所を介して立ち退きの催促

「強制執行の申し立て」が裁判所で受理されると、賃借人に立ち退き催告状が届く。通常、1ヶ月以内に立ち退くよう催告されるケースが多い。

STEP9.強制退去

「強制執行の申し立て」の催告期間が過ぎても入居者から部屋の明け渡しがなかった場合、いよいよ強制退去となる。裁判所の執行官が連れてきた業者が、遺留品をすべて撤去し、国の一時倉庫に保管される。保管期間内に引きとりにきた場合は、保管費用と引き換えに遺留品が返還されるが、保管期間が過ぎても遺留品を引きとらなかった場合は破棄される。

裁判の段階で、滞納していた家賃の返還請求も同時に行われていた場合は給与や換金価値のある資産も差し押さえられる。

強制退去にかかる期間と費用はどのくらい?

強制退去の費用

強制退去の手続きでは、法的機関とのやりとりも多くかなりの時間が必要になる。また、強制退去の執行の際、荷物を外にだす費用は大家が支払う必要がある。強制退去には一体どのくらいの期間と費用がかかるのか、おおまかな目安を紹介していく。

強制退去にかかる期間は半年〜1年以上の長期戦!

強制退去の手順でも紹介したが、入居者が1ヶ月家賃を滞納したとしても強制退去させることはできない。通常、大家が賃借人に対して立ち退き・明け渡しを請求する場合、半年前には通知しなければならない。家賃滞納1ヶ月目に「支払いが行われない場合は立ち退きとなる」と通知したとしても、明け渡しの日付は半年後となる。また、裁判を視野に入れて正式に強制退去の手続きを開始するには、規約違反などの正当な理由が必要だ。そのためには、家賃滞納後から手続きを開始するまで約3ヶ月は待たなければならない。さらに、民事裁判での判決を待ってからの退去となれば約1年、賃借人が裁判で不服申し立てをすれば2年程度、何度も不服申し立てをして高等裁判所の判決後の強制執行であれば3年近くの期間を要するケースもある。強制退去は、基本的に長期戦になると考えたほうがいいだろう。

強制退去にかかる費用は意外と高額!

強制退去にかかる費用は意外と高額である。かかる費用は大きくわけて「弁護士費用」「明渡請求訴訟の費用」「強制退去を行う費用」の3つだ。

■強制退去にかかる費用の目安

弁護士費用 (事務所により異なる) 相談料 5千円~1万円/時間
着手金 10~40万円
報酬金 回収金額の10%程度
明渡請求訴訟の費用 予納金 6万5千円
予納郵便切手 約6千円
強制退去費用 開錠技術者費用 約2万円~/回
荷物運搬費用 1R:10万円~
戸建て:30~50万円
廃棄処分費用 約2~4万円

強制退去にかかわるすべての費用を支払うと、だいたい50万円前後になるケースが多い。強制退去には期間も費用もかかるため、多くの大家はできるだけ裁判にもちこまず話し合いで解決したいと考える。しかし、かかる費用を大家が負担せず、賃借人に請求できる場合がある。

家賃滞納者に請求できる費用は?強制退去分ももらえるの?

強制退去にかかった費用は、すべて大家が支払わなければならないのかというと、そうでもない。そもそも、家賃滞納が起こらなければ、強制退去の手続きは必要なかったはずだ。そう考えれば、強制退去にかかる費用は家賃滞納者が支払うのが自然である。家賃滞納者に請求できる費用をみていこう。

滞納金の支払いはもちろん請求できる

まず、滞納した分の家賃は家賃滞納者にもちろん請求できる。くわえて、未納分の家賃の延滞期間に応じて、延滞金も請求が可能だ。延滞金は、次の式で計算される。

延滞金=滞納分の家賃×遅延損害金利率×0.01×滞納日数÷365日

遅延損害金利率の上限は年間14.6%だが、賃貸契約書に遅延損害金の記載がない場合、一律5%で計算する。

強制退去にかかった費用も請求できる!

民事執行法第42条で、「強制執行の費用で必要なものは債務者の負担とする」と定められている。そのため、強制退去にかかった回収作業費用や裁判費用は、ひとまず大家が支払い、あとから賃借人に請求することができる。ただし、家賃滞納者に支払える財産がなければ回収は期待できない。また、弁護士の相談費は「強制執行に必要な費用」とみなされないため請求できない。

家賃滞納を放置していると「膨大な損」をする!

所有物件に家賃滞納者がいても、めんどうだからと督促をしないと5年で時効になり家賃支払いの請求ができなくなってしまう。そのため、督促は滞納1ヶ月目にすぐに行う必要がある。

家賃滞納者が物件にいると、収入にならず、新たな入居者募集もできない。人が住んでいるため部屋の劣化も進んでいく。

なるべく早めに家賃滞納者と連絡をとり、支払いの約束をしてもらおう。連絡がとれなくてもあきらめずに何度も電話をして手紙を送り、最後の手段として強制退去の手続きを行う。

大家のなかには、強制退去には時間と費用がかかるため、家賃滞納が3ヶ月以上続いたら「滞納分の家賃は免除するので、すぐに出ていってほしい」と交渉する人もいる。多少の損失よりも、家賃収入を得られない部屋があることのほうが、不動産投資においては大きな損なのだ。

そもそも家賃滞納をさせないためには?

家賃滞納の回避策

そもそも、なぜ家賃滞納が起こってしまうのか。家賃を滞納する理由には、入居者のさまざまな問題が関連している。よくある家賃滞納理由と、家賃滞納を発生させないために大家ができることを簡単に紹介しよう。

■よくある家賃滞納の理由

  • 支払いを忘れていた
  • 旅行や出張で留守にしいていた
  • 入院していた
  • お金がなくて払えない
  • お金はあるが支払いたくない

■家賃滞納を発生させないためにできること

  • 毎月、賃料の入金状況をチェックする
  • 未払いがあればすぐに入居者に電話連絡する
  • 未払い通知を送付する
  • 入居者と仲良くなっておく
  • お金がなくて支払えそうにない場合は支払日の相談にのる

家賃滞納が1度や2度発生したからといって、すぐに怒って電話をしたりせずに、まずは入金を忘れていることを伝え、いつなら支払えるのか相談しよう。入居者側は、1〜2ヶ月程度の未払いを「家賃滞納」と思っておらず、深刻に捉えていないことも多い。

家賃滞納は正しい方法で強制退去してもらおう

所有物件で家賃滞納者が発生してしまった場合、まずは早めの連絡相談が重要だ。何度も電話しているにもかかわらず連絡がとれない、または支払う意思がない場合、強制退去の手続きをとってでも家賃滞納者には出ていってもらわなければならない。空室でもないのに家賃が入ってこない状況は、投資としてかなり大きなマイナスだ。

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この記事の監修者

不動産投資ユニバーシティ代表 志村義明
大学を卒業後、大手シンクタンクに入社。リテール金融ビジネス向けの業務に従事。愛知、埼玉、山梨等で不動産賃貸業を展開し、会社員時代に合計100室超を購入。高利回り物件の投資を得意とし、保有物件の平均利回りは16%超にのぼる。現在は不動産会社(宅地建物取引業者 東京都知事(2)第98838号)を経営。
詳細プロフィール

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