収益物件の大規模修繕(外壁塗装・屋上防水)はどのタイミングで行うべきか

2020年12月18日3,291

マンションやアパートなどの収益物件が新築で建ってから時間が経過すると、外壁は汚れて来るし防水機能も落ちる。

外壁、屋上、共用部の大幅なリフォーム、配管の交換など大きな金額を掛けて直すことを大規模修繕と呼ぶが、これを実施するタイミングを見極めるのは大変難しい。

屋上防水は100万円以上、外壁塗装は500万円以上かかることが多く、その物件の年間キャッシュフロー以上の金額が出ていく場合がほとんどだからだ。

外壁塗装と、屋上防水の目安となる単価は以下の通りだ。

外壁塗装の目安単価(足場等の諸経費も含む)

塗装の種類 耐用年数 平米あたりの単価
アクリル 5年 2,500円
ウレタン 10年 3,000円
シリコン 15年 3,500円
フッ素 20年 4,000円

屋上防水の目安単価

塗装の種類 耐用年数 平米当たりの単価
ウレタン密着 10年 3,500円
ウレタンメッシュ 13年 5,000円
塩ビシート 17年 7,500円

収益物件においては、大規模修繕は基本的には安易にやらない方が良い場合が多いのが実状だ。

その理由について説明しよう。

なぜ大規模修繕はやらない方がいいのか?

大規模修繕は数百万円クラスの発注になることが多く、場合によっては2-3年分のキャッシュフローが一気に飛んでしまう。

「修繕」と言う呼び名の通り、大規模修繕は物件のバリューアップではなく「守り」のための施策だ。

あくまで予防措置としての意味合いが大きいのだ。

それに対して何百万円も掛けるのは、費用対効果としてそれだけの価値があるケースが少ない場合が多い。

一般的に大規模修繕は、築10年~15年を目途に行うのが良いとされている。

ただし、この手の話は一戸建てなどの実需物件と収益物件でごちゃごちゃに議論されている場合が多い。

時期が来たからやるという安易な考えではなく、そもそもなぜ大規模修繕をやるべきなのかをしっかり考える必要がある。

自分が住む用の物件の修繕は、見た目の綺麗さを重視する人が多い。

自分がお金を出して買っている家やマンションなので、みすぼらしいままでは嫌だと考える場合が多いのだ。

逆に、投資用の物件の場合は、見た目よりも費用対効果に合うかどうかの方が重要だ。

大規模修繕の計算例

大規模修繕の費用対効果に関する例を出そうと思う。

新築で収益物件が建ったばかりの時に10万円で貸していた部屋があったとする。

10年経って3回転以上すると家賃は8万円ぐらいになっているだろう。

この段階で大規模修繕をしたところで、築10年の物件は築10年で変わりはなくいくら磨いたところで新築同様のレベルには戻らない。

8万円で貸しているものをしばらくキープ出来るかもしれないが、5,000円以上の値上げは厳しいだろう。

全体的な劣化を完全に修復できるまでのリフォームは絶対に出来ないので、大規模修繕によって家賃を大幅に値上げが出来るケースは稀なのだ。

例え3,000円家賃を上げられたとしても、外壁塗装に700万円掛かった場合を考えると、収支が合わなくなってしまう。

具体的に、計算してみよう。

700万円掛けて外壁塗装をしたあと、一戸当たり3,000円の家賃アップが仮に出来たとする。

そのマンションが30部屋あった場合、月間9万円の家賃アップだ。

年間だと108万円の家賃アップになり、大規模修繕の投資利回りは、108万円÷700万円で15.4%になる。

15.4%の利回りであればやる価値はあるように思えるかもしれないが、ローンを組めないのであればやはりイマイチな投資になるだろう。

しかも、15.4%の利回りはずっと3,000円アップを維持しないとシミュレーション通りにならない。

一旦上げた家賃も、結局時間が経つにつれドンドン更に下がるからだ。

既に住んでいる入居者の家賃を上げるのは困難だという現実的な問題もあるので、結局は絵に描いた餅となる可能性が高い。

大規模修繕が、お金を新たに生むための支出にならないことがわかるだろう。

何もやらないと外壁に深刻な劣化は発生するのか?

同様のことは、もっと築古の収益物件にも言える。

結局のところ、大規模修繕をするよりも家賃を下げた方が費用対効果が高いケースの方が多いのだ。

私は築25-30年で、外壁塗装を一度もやっていない物件を複数持っている。

外壁は黒ずみが目立ち、ハッキリ言って外観が綺麗な状態だとは決して言えない。

しかし、その分最低ランクまで家賃を下げている。居室内の原状回復は、住んでいてストレスがないレベルの仕上がりにしているので問題は発生しない。

デザインの工夫は多少しているが、浴室やキッチンのフルリフォームは行っていない。和室も残している。

家賃が適正なら、多少汚くてもこれだけで十分埋まるのだ。年間入居率は98%を維持しており、家賃が安いので入退去も少ない。

この水準は、少なくとも今後5年間は問題なく維持できると考えている。

このような物件を買って雨漏りや配管が壊れることはないのかというと、やはりはたまに起きる。

ただし、その都度その箇所だけ補修すれば、再度起きることはない。応急処置的な対処療法で十分なのだ。

700万円も掛けて大規模修繕を行う必要は全然ないのだ。

やはり、価格とのバランスが一番重要だ。

自分が住みたいかどうかを基準にしてはいけない

自分が住みたいかどうかを目安にしている人もいるが、意味がないので辞めた方がいいだろう。

価格重視の人は、多少汚れていて不便でも家賃が安ければ喜んで入居する。

逆に立地や綺麗さにこだわる人は、一等地のラグジュアリーな物件でないと住めないので、一度入居してもいずれ出て行ってしまうのだ。

これらの異なる価値観の人達が、お互いの感覚を理解し合えることは決してないのだ。

数百万円規模の投資が必要な大規模修繕は、工事が終わった後でないと家賃を上げられるかどうかわからないので、かなりリスキーな投資になる。

よほど利益が出過ぎて経費を増やしたいという事情があるか、国の制度を使って補助が出るなどの理由がない限りは、大規模修繕はやらない方が良いケースが多いだろう。

私は家賃を安易に下げることには基本的には反対だが、大規模修繕をするぐらいなら家賃を多少下げて募集した方がマシだ。

賃貸の営業マンや、リフォーム会社の社員は、その物件のトータル収益に責任を持った発言をするわけではなく、

「外壁綺麗になったら決めやすい」

「配管を新しくすれば水関連の被害の心配がない」

など、部分最適な意見しか述べない場合が多い。

しかも、その言葉に責任を持つわけではない。実際に大規模修繕しても、家賃を下げないと決まらないケースは多々あるのだ。

そのような場合でも、

「外見は綺麗になりましたが、やはり家賃を下げないと空室は決まりません」

という無責任な一言で済まされてしまうだろう。

投資家である我々は、これらの営業マンの言葉をそのまま鵜呑みにしてはいけないのだ。

あくまで投資家目線で、費用対効果があるのかを冷静に判断しなくてはならない。

この記事の監修者

不動産投資ユニバーシティ代表 志村義明
大学を卒業後、大手シンクタンクに入社。リテール金融ビジネス向けの業務に従事。愛知、埼玉、山梨等で不動産賃貸業を展開し、会社員時代に合計100室超を購入。高利回り物件の投資を得意とし、保有物件の平均利回りは16%超にのぼる。現在は不動産会社(宅地建物取引業者 東京都知事(2)第98838号)を経営。
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