サラリーマン大家の不動産投資法1(長期投資、短期投資)

2020年12月17日1,405

サラリーマン大家が不動産投資に取り組む場合、投資を短期で回収するのか長期投資を行うのかによって、取り組み方は大きく変わる。

短期で物件を所有し売買を繰り返すやり方は、いわゆる短期売買になる。

サラリーマン大家が行う不動産投資は、長期保有が基本になるが、この項では長期保有と短期保有の違いについて説明を行おうと思う。

個人で短期売買は可能か?

宅建業者ではない個人が短期で売買を繰り返すことは「反復取引」に当たるとされ、原則的に禁止されている。

ただし、その頻度については明確に定められてなく、管轄の国土交通省も個人がどれだけの数の売買をしているかの頻度は知る術がないのが実状だ。

年数回の売買であれば、個人のサラリーマン大家であっても問題ないと考える人が多い。

ちなみに、新設法人を使って購入が出来ればこの点も解消できる。

短期投資は利益確定までの期間が短いので、しっかりとリサーチが出来ていれば比較的リスクが少ない手法だ。

代表的なやり方は、割安に物件を購入して簡単なリフォームなどを行い、満室に近づけてから売り抜く手法となる。

もちろん売買に際して必要となる、登記の費用、不動産取得税、仲介手数料などが物件価格の6-7%掛かってくるので、相場よりかなり安く仕入れないとうま味は少ない。

自分で買い手を見つけられれば、同日中に3者間の移転登記を行う中間省略取引を行うこともできる。

中間省略は初期費用の大部分を占める不動産取得税が掛からないので、その点で大きなメリットがあると言える。

ただしどちらのやり方も、物件の見極めることの難易度は高くなるので、売買経験のない初心者がいきなりこの手法に取り組むのは難しいだろう。

長期投資は融資を使えることがメリット

短期売買とは反対に長期に渡り物件を保有して利益を得る投資が「長期投資」となる。

どこからが長期投資になるかの期間の明確な区切りはないが、少なくとも5年以上、築浅や新築で購入していれば20年や30年にわたり保有することも長期投資では考えられる。

長期投資を行うことのメリットは、短期投資のようにすぐに売却しても利益が得られるほど割安な物件でなくても良いという点だ。

長期で保有することにより返済が進み、保有時のキャッシュフロー(利益)に加えて売却時利益も狙うことが出来るからだ。よって、購入段階での物件選びの間口は格段に広くなる。

一般的論として、物件の建物部分は年数が経つにつれてだんだん劣化する。同じエリアや構造であれば、築5年よりも築15年の物件の方が様々な部分が劣化しており建物の価値は下がる。

そのような前提がある中で、幸運にも買ってすぐ売却しても利益が出るような割安な物件の購入が出来たとする。

そうすると、あなたは経年劣化により建物の価値が下がることを懸念し、すぐに売却活動に入った方が良いと考えるかもない。

しかしこのような割安な物件でも、すぐには売らずに長期で保有していた方が利益が出る場合が多いのが実態だ。

何故かというと、多くのサラリーマン大家は銀行融資を組んで物件を購入するので、保有期間中に元金の返済が大きく進むからだ。

例を挙げよう。

あたなは築5年で5,000万円のRC物件を購入したが、この物件は相場の価格だと6,000万円で取引をされていたとする。

このくらい相場価格と購入価格の差があった場合は、不動産取得税や仲介手数料など購入時に要した費用を差し引いても、売却した場合は数百万円の利益が出るだろう。

この物件をこのあと10年間保有して築15年の状態で売却をした場合、どうなると思うだろうか?

不動産市場にも、株や為替と同じく市況や景気循環といった要素が絡んでくるので、10年経った時が今と市況がどう変わるかの予測はつかない。

ただし、今回の例では論点を明確にしてわかりやすくするため、景況は10年経っても同じだと考えよう。

前述したとおり、建物の価値は経年劣化とともに下がり、それと共に売価も下がることになる。

土地+建物の総額5,000万円のうち、建物部分(4,000万円とする)が年1%ずつ価値が低下すると、10年後の建物の価値は3,617万円になる。

土地値は1,000万円のままだとすると、1,000万円+3,617万円=4,617万円が10年後の理論価格となる。

383万円の価値が、10年間の間建物が経年劣化することにより失われたことが計算の結果わかった。

その間の10年間でキャッシュフローを計算してみよう。利回りが8%、調達金利が2.5%だとすると、年間20万円~40万円程度の手残りは見込める。

年間20万円だとすると、20万円×10年で税引前の粗利は200万円となる。加えて、もう一点考えるべきなのは、銀行への返済がどれだけ進んでいるかだ。

融資期間は20年間、調達金利が2.5%、元利均等返済、融資金額はフルローンだとする。

当初は5,000万円の残債があるが、10年間経つとそれが3,000万円ほどに減ることになる。

返済した2,000万円はキャッシュフローではないので、売却して手放した時に初めて手に入るお金だ。

これに、10年間のキャッシュフロー200万円を加えると2,200万円になる。

購入してすぐ築5年の段階で売却していても、6,000万円が相場の物件を5,000万円で購入していたので、諸経費を引いた数百万円の利益であればすぐに得ることが出来たかもしれない。

しかし、上記の通り10年経った後に売却した場合は、経年劣化分の383万円を2,200万円から引いても1817万円の利益が残る計算になる。

サラリーマンでも大家経験が長い人ほど、不動産投資は時間を掛けた長期投資方が良いと言うが、それは銀行への返済が建物の劣化よりも早く進むという本質を理解しているからだ。

上記は、割安に当初から購入できた場合についての例だったが、長期投資の場合は相場通りの金額で購入しても十分利益が出ることが分かったと思う。

長期投資は、5年以上保有すると安くなる不動産売却税からもメリットがある。

個人の場合5年以内に売却すると分離課税が39%掛かるが、それが20%になるのだ。

不動産売却益による課税は分離課税なので、他の収入の損益との相殺は出来ない。なので、このメリットはかなり大きいと言える

基本的に長期投資の方が、収益面でのメリットが大きいという論調で述べたが、物件は千差万別であり市況も常に変化する。

先々の不確定なリスクを取るよりも、景気が良く高く売れるときに売った方が良いケースが沢山あることは確かだ。

物件ごとに出口の利益が最大化するタイミングというのが必ず存在する。

それをしっかり検討して計画を立てる必要があるのだ。

なぜプロの不動産業者は長期投資をしないのか?

最後に、何故いわゆるプロの不動産業者が物件の長期保有をしないケースが多いのかについて話そう。

昨今は自社で物件を保有する買取業者も出てきているように思えるが、彼らの主軸はあくまでも不動産の短期売買だ。これにはいくつか理由がある。

まず一つ目は、先に挙げた長期投資の税制面のメリットは宅建業者には適用されないという事情がある。(そもそもの税金が分離課税ではない。)ゆえに、長期で保有する税制面でのメリットが特にない。

二つ目の理由は、長期の融資を受けて不動産を購入することが会社として難しいケースが多いことが挙げられる。業態的に長期投資向けの融資を受けることが困難だと銀行からみなされる場合も多く、融資に関するノウハウそもそも持っていない会社が多いという理由もあるだろう。

最後の理由が一番切実だ。長期投資は短期で利益確保が必要な会社にとっては時間が掛かり過ぎるので、資金繰り上取り組むことが出来ないのだ。

一人会社などを除き、不動産仲介会社は、オフィスを借りて、人を雇ってという固定費を抱える会社がほとんどなので、大方の利益が発生するのが10年後では資金繰りがままならなくなってしまうのだ。

短期投資(短期売買)には、時間の経過とともに起きうる空室リスクや市況変動リスクなど様々な不確定要因の影響を受けないという、長期投資にはないメリットもある。

本業で一期ごとに利益を上げるために取り組む事業として、このやり方を選択するのは合理的だ。

ただしそれは、不動産会社として知識と経験が十分にあるから出来ることだ。

サラリーマン大家が不動産を投資として副業で取り組むのであれば、融資が組めるというメリットを活かしながら長期投資を行うのが良いと言えるだろう。

この記事の監修者

不動産投資ユニバーシティ代表 志村義明
大学を卒業後、大手シンクタンクに入社。リテール金融ビジネス向けの業務に従事。愛知、埼玉、山梨等で不動産賃貸業を展開し、会社員時代に合計100室超を購入。高利回り物件の投資を得意とし、保有物件の平均利回りは16%超にのぼる。現在は不動産会社(宅地建物取引業者 東京都知事(2)第98838号)を経営。
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