「所有者不明土地」が国土の20%を占めるようになった理由

2020年12月16日2,031

「所有者不明の土地」が日本にどれだけ存在しているかご存知だろうか?

日本全国で顕在化する「所有者不明の土地」の総面積は日本の国土の20.1%(410万ヘクタール)に及んでいるという推測結果が「所有者不明土地問題研究会」から発表された。

(出典:国土交通省「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」

日本の国土の20.1%といえば、九州全体の土地面積を上回っている。所有者が解らなければ固定資産税の徴収は不可能なので未徴収となる。

これだけ多くの税金を徴収できていないというのも問題だが、国土の20%もの土地を活用できていないというのは日本全体の経済的な機会損失である

これは、日本の経済の足を引っ張っていると言っても過言ではない。なぜ所有者が分からない土地が出てくるのかを考えていこうと思う。

なぜ所有者不明土地が発生するのか?

本来、不動産は「不動産登記簿」により所有者が管理されている。不動産登記簿とは、土地や建物の所在や面積、所有者の住所、氏名が記載されている。

不動産登記簿が公開されることによって権利関係などの状況が誰にでも分かるようになっている。なぜ不動産登記簿があるにも関わらず土地の所有者が不明になってしまうのだろうか?

不動産登記簿のサンプル

出典:法務省「不動産登記のABC

不動産相続の未登記

通常、不動産を売買した際には、司法書士が確実に登記変更を行なうため登記漏れは発生しようがない。

だが、不動産を故人から相続した際は手続きを面倒臭がられ、そのまま忘れられて放置されるケースも多くみられる。

不動産登記は、規則はあるものの義務ではなく、刑罰になるような重い罰則規定はない。仮に未登記が判明した場合でも、せいぜい10万円以下の金銭罰で済んでしまう。

不動産の登記が意図的に行われない場合も存在する。相続人がその土地に価値を見出せなかった場合には、固定資産税の負担や土地の管理の負担を避けるために、あえて登記をしないまま放置するのだ。

放置されたままの所有権は時間の経過とともに相続人の数が増え、所有権を確定するための合意が不可能になっていく。そうして問題の糸は複雑にもつれて紐解くことが困難になる。

また、元々きちんと管理されていた土地が、震災や火災などの災害によって不運にも管理人が所在不明となってしまった例も多くある。

所有者が分からないから整備することも買い取ることも出来ず、放置されているのが現状だ。

こうした様々な事情から適切な記録が成されず、土地は所有者不明となっていく。

所有者不明の土地は買えるのか?ビジネスチャンスの可能性は!?

不動産投資を考えている人や既に行っている人の中には、空き地を見掛けると

「あの空地の値段は幾らくらいなのか…」

「誰も使用していない土地なら購入してアパートを建てたい!」

と考える人も少なからず居るのではないだろうか。

相続人がかつて不要な土地だと判断した場合でも、その地域にマイホームやアパートを建てるなどの要望を持っている人が検討すれば、その土地を活かせる道がみつかるかもしれない。

しかし「あの土地が欲しい!」と思い、よく調べてみると所有者不明土地だった場合、全く問い合わせようが無いのが現状だ

そこで所有者不明の土地を購入する方法はないか調べてみることにした。

所有者不明の土地は時効取得するしかない

所有者がわからない土地は「購入」するのではなく、「時効取得」するものである。

時効取得とは、他人の物または財産権を一定期間継続して占有または準占有する者にその権利を与える制度のことである。

土地の時効取得とは、裁判所の勝訴・判決を受けて土地の所有権を自分のものに名義変更を行うことを指す。

裁判で晴れて時効取得できれば、自分の土地として手に入れることは可能ではあるが「一定期間占有する者」でなければ時効取得はできない。

つまり、既に所有者不明土地を利用している必要があるため、全く関わりがない通りすがりの赤の他人では裁判を起こしても手に入れることは出来ない。

「特別措置法案」成立!土地活用は出来るようになるか?

2018年6月、参院会議にて「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」が成立した。主な内容を簡単にまとめてみた。

(出典:国土交通省

所有者不明土地を円滑に利用する仕組み

公的な利用目的であれば10年を上限に利用することができるようになった。

もし所有者が現れ、異議申し立てがあった場合は期間終了後に原状回復し、所有者の異議が無い場合は10年ごとに更新が可能となる。

これにより、今まで所有者不明で手付かずだった土地が公共利用を目的に有効活用できるようになった。

所有者の探索を合理化する仕組み

所有者がわからない土地の所有者を探索するために、親族の範囲に限定して、住民票、戸籍などの公的書類を調査できる制度が創設された。

また、相続登記がされていない土地については「長期相続登記等未了土地」として記録することができるようになり、事業認定登記名義人となり得る人に相続登記の申請を勧告できる制度もできた。

この制度が施行されることにより、従来よりも土地の所有者を探しやすくなり、時間短縮と探索費用削減に繋がることになる。

所有者不明土地を適切に管理する仕組み

現在の民法では、所有者として記載されている人に代わって財産を管理する人間を選任できるのは相続関係者や検察官のみだったが、特例として地方公共団体が家庭裁判所に対し財産管理人の選任を請求できるようになった。

これにより、所有者も不明で相続人の行方も分からなかったことにより荒れ放題だった土地が、適切に管理できるようになった。

所有者不明土地の活用法まとめ

これまでの法律では放置せざるを得なかった土地の所有者を探しやすくした他、どうしても所有者が見つからない場合には公共利用もできるようになったのは大きな進歩と言えるだろう。

個人で所有者不明土地を取得するには、占有権を所持した上で時効取得するしかないが、所有者を見つけやすくなったことにより、所有者が特定できる土地も増えるのではないだろうか。

特定された所有者は、正式に所有するあるいは所有権を放棄するなど、権利が誰のものかを明らかにすれば利用できる土地は格段に増える。これは、将来的に日本経済全体のプラスとなるだろう。

この記事の監修者

不動産投資ユニバーシティ代表 志村義明
大学を卒業後、大手シンクタンクに入社。リテール金融ビジネス向けの業務に従事。愛知、埼玉、山梨等で不動産賃貸業を展開し、会社員時代に合計100室超を購入。高利回り物件の投資を得意とし、保有物件の平均利回りは16%超にのぼる。現在は不動産会社(宅地建物取引業者 東京都知事(2)第98838号)を経営。
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